「悪夢を喰う。それが獏だ」

片目のソイツは、静かに呟いた。
まるでその存在自体が悪夢のような、そんな感覚に囚われた。


 

01 : 夢も見ずに



+物語はここから始まる+


「なに、コレ」


すっかり暗くなった下校道を進みながら、亜月は手元の携帯電話の明るい画面と睨み合っていた。
見れば料金は規定内をとっくに飛び越していて、取り返しもつかない状態。
散々続けたメールが殆どの理由だろう、これで今月も残り十日はロクにメールも出来なくなった。
そーいえば学校休んだ日に写メ送りまくっちゃったしなぁ・・・と沈んだ面持ちで携帯を鞄にしまい込む。
どーにもお金は扱いにくい。いっそのこと全てタダにしてくれたらいいのに、家族間問わず。
誰が聞いている訳でもないのにブツブツ文句を言いながら、亜月は夜道を急いだ。
最近夜道を一人で歩くのが不安になるようになった。
それは暗闇が恐いとか、誘拐犯だとか通り魔だとか・・・そんな簡単かつ回避可能な理由じゃない。

どうにもあたしは夢に取り憑かれてしまったらしい。

ここ数日の奇っ怪な出来事を総合して思案した結果、この考えに至った。
本当そんな馬鹿な、と鼻で笑ってやりたいが、その道のプロにまで「そうだ」と深く頷かれた日には開いた口が閉まらなかった。
あまりしっくりくるような解答じゃないと自負していても、自分一人しかいない家の家具が大幅に変わっていたり、突然、かまいたちのような傷を受けたりすれば、尋常じゃない。心が納得しない。
事実を言ってしまえば「夢に取り憑かれるなんてそんな・・・」とはただの強がりだ。
今、ここに誰もいないのだから、このキッチリしまい込んだ「恐いです」と言う率直でかつ恥ずかしい心情をさらけ出してもいいだろうか。

亜月はちらちらと脇道に目配せしながら家へ続く道を一直線に歩いていた。
蛾が数匹、舞い散る桜のようにひらひらと蛍光灯に屯っている。丁度その脇を通る時、背筋を寒気が襲った。

別に何かに追われてる訳でもないのに足が段々とスピードをつけて進んでいく。
亜月は無意識のうちに鞄に突っ込んだ携帯を取り出して握りしめていた。
背後に何かいるような気がする。

何か、いる。

確信めいたものが脳裏を掠めた。けれど恐くて振り返れない。もし振り返れたとして、それでそこに何もいなくて、安心してもう一度視線を前に戻した瞬間、何かが視界に入る。
そんな気がしてならない。

早足とも言えないくらい早さを増した足は、半分、全力疾走にもなりかけていた。
ぽつぽつと道を照す街灯もジジジ・・・と嫌な音を立てる。
汗ばんだ手で携帯のボタンを押し、つい最近登録した電話番号を押した。
コール音は3回で止まった。望んだ相手の声がする。


『はい、夢喰い屋“獏”。店長の山本ですけど』


この雰囲気とは不釣り合いな程、覇気のない声が流れ出てくる。
寝ていたのだろうか、電話の向こうであくびの声がそれにくっついて聞こえた。
けど今の亜月にはそんな事どうでもよくて、電話に出てくれた事にほっとしつつも逆に何でこんなにのんびりしているんだ、と腹ただしい気持ちを全面的に押し出した。


「山本ッ 何か、何か変なんだけどッ」


思っていたよりせっぱ詰まっていたらしい。
あまりにも略し過ぎた言葉に、電話の向こうで「はぁ?」と聞き返す声がする。


『何が変? お前の頭?』

「バッカ! 違うよ!」

『じゃぁ何、あ、顔? 顔が変だってようやく自覚した? ダメだろ鏡くらい見なきゃ』

「違ェェ!! そーじゃなくて何か辺りが変って言って・・・」


言葉を繋ぐ筈の口が開いたまま止まった。
ガクガクと膝上が震えだして、携帯を落っことしそうになる。
蛍光灯に屯っていた蛾が数匹、熱にやられて散っていく。


『オイ。どーした?』


感覚が麻痺しかかっている亜月の耳に、山本の声が届いた。
かさかさに乾いた唇から掠れた声が出る。本当に喉を通ってきたのかと言うようなその声は、ヒキガエルのように押し潰れていて、電話の向こうで聞き取れたのか定かじゃない。


「お、お父さんが・・・」


コツ、コツ、と規則正しい足音が、革靴から鳴り、夜の道を辿ってあたしに近付いてくる。


「お父さんが・・・」


きっちりとスーツを着こなしたソレは、やわらかい笑みを零してあたしに手を差し伸べた。
冷たい風が殴るようにあたしの頬を掠めていく。
もう何と伝えたらいいのか分からなくなって、一番妥当な言葉を繋げた。


「お父さんが、いる」


ずっと前に死んだはずのお父さんが、
今、目の前にいる。




+++




それは一週間前。よく晴れた日曜日の昼の事だった・・・

何度も近付けては離しての繰り返し。何度行き来しても押される事のないインターフォンを見ながら、行き場を失いつつある人差し指をもう一度引っ込めた。
一つ溜息を付いて、何をこんなに緊張しているんだ自分。と言い聞かせる。
見渡せば極普通の一戸建ての家。純和風の瓦屋根は、そんなに旧い訳じゃなくそれなりにキレイなままにあった。
少しくすんだ表札には「山本」の文字が彫り込まれ、インターフォンは丁度その下。

亜月はそのインターフォンの更に下にあるA4版のコピー用紙に書かれた乱雑な字を見下ろした。

『夢喰い屋“獏”』

現在進行形で亜月はその張り紙とインターフォンを前に、二十分の葛藤を繰り返している。

好い加減足も疲れてジンジンしてきたし、いつまでも他人の家の玄関の前に立って一人悶々と考え込むのも恥ずかしい。
かと言って今更引き返す事も何だかやるせない。ここまで来た意味が無くなる。
結果的には、何とか勇気を振り絞ってインターフォンを押すしかないのだろうけど。
沈黙を湛えて少し汚れたそれを見下ろす。たった1回押すだけだ。
それから人が出て来て、相談に乗ってくれる。何でもなかったら帰ればいいだけ。
簡単じゃないか。
自分に自分で言い聞かせ、人差し指をもう一度インターフォンへ近付けた。

その時。


「ピンポーン」


丁度亜月の真後ろから、やる気のない声で棒読みのチャイム音が鳴る。
驚いて振り返れば、そこにはこの家の主であろう男が一人、近所のコンビニ袋を下げて立っていた。
170を越す身長と、目立つ銀髪。見れば瞳もキレイな紅色だった。
男は面倒臭そうに首筋を2,3回かくと、「えーっと・・・」と亜月を見下ろす。


「うちに何か用?」


端正な顔が歪む事も緩む事もなくそこにある。
白い肌には、腕と胸元に厚く包帯が巻いてあった。
濃いジーパンに白の襟付きTシャツという至ってルーズな格好には、それがそれなりに馴染んで得に気になる程じゃない。


「さっきから二十分くらいそこに突っ立ってるけどさ・・・もしかして、インターフォンの使い方分かんねぇの?」


まさかそこにくるとは。

普通そこは「入りづらかった?」とか、そんなんじゃないのか。
唖然とした顔のまま男を見上げている亜月に、ソイツは少しだけ目を眇めて再び首筋をかいた。
どうやらクセらしい。


「ま、どーでもいいけど。依頼なら中で聞くから」

「え、あ、はい」

「何で緊張してんの」

「あ、はい。すみません」

「いや、別に謝る事でもねぇけど」


男はガラリと引き戸を引いて亜月を招いた。
自分の家なんだから何の抵抗もなく開けて当然なのだけど、あまりに自分が悪戦苦闘していたため、こんなにもあっさりと入られてしまう事が少し苛ついた。
もうちょっとなんかしろよ。と心の隅で思ったが、いちいち自分の家に入るのに何をしろと言うんだ。
自分で思っておきながら、我ながらバカな考えだと口にださないように心がけておく。

中も至って普通の家だ。いや、むしろあまりに普通過ぎて少し不安を覚える。
ここ・・・『夢喰い屋“獏”』の事は友達を通して知った。
何でも悪夢を食べてくれるとか・・・あまりに非現実的な店なので、今まで話題でネタとしてもあまり出てこなかったが、最近夢見が悪い亜月にとってはある種の天国だった。
相談だけでもいい。とりあえずこの不安を取り除きたい。
そんな考えでやってきた亜月にとって、この何の変哲もない家は不安を煽る材料でしかない。
怪しげなものが沢山置いてあっても逆に困るだけだが・・・。

男は客間だろう部屋に亜月を案内してから、どこからともなく麦茶を運んできた。
しかもどっちの方が多く入ってるかとか、「こっちの方が多いな・・・」と自分のものにしているあたり、なんだかとても大丈夫なんだろうか・・・と思わせる節が多い。
亜月はなるべく自分が不安になりそうな要素は片っ端から見ない振りをして右から左へ全てスルーする事に決め込んだ。
そうでなければここに来た意味が悉く音を立てて崩れていきそうだ。


「それで、えーっと・・・まずアンタの名前だけど・・・」


静かな目がこっちを見る。
改めて顔を見、初めてこの男が隻眼だと言う事に気付いた。
左目は切れ長でもしっかりと開いているのに対し、右目は常に眠ったように閉じられている。


「和親亜月って言います」

「あぁ、じゃぁ亜月でいいな?」


男がそう言って山積みのコピー用紙の中から一枚だけ引っ張り出し、そこに乱雑な字を書いていく。
亜月はいきなり呼び捨てにまで持ち込まれた事に呆然としていて、思わず手に取った麦茶を引っ繰り返しそうになった。
本当に商売人なんだろうか・・・こんな接客、普通はしないでしょ。
段々と頭が痛くなっていく気がする。
小さく溜息を零して何かが書かれていくコピー用紙に視線を戻す。
そしてその字を見て、インターフォンの下にあった店の名前も、この人が書いたんだろうなと確信した。
少し右上がりな字は、真っ白な用紙に、

『山本凌』

と残されている。
男はそれを引っ繰り返して亜月の方へ向け、ずずいと寄せてきた。


「山本凌。ここの店長だ。山本でいい」


ソファに深く座り直した山本は、麦茶のコップを片手に亜月を見下ろしてくる。
亜月は「はぁ・・・」と間抜けな返事を返して、凌の次の言葉を待った。


「で、どんな夢で悩んでるわけ?」

「えっ、何で夢見が悪いって知ってるの?」

「は?」


今更何言ってんだよ、と言いたげな瞳が向けられる。。


「ここは夢喰い屋“獏”。夢以外の依頼は引き受けねぇんだよ」


「獏?」と繰り返す亜月に、凌は初めてうっすらと笑みを見せた。
それは春の雪解けのようにあたたかいものでもあったけれど、反面、何かを蔑むような深く厚い氷のような冷たいものでもあった気がする。
その感覚に囚われて指一本動かせない。

凌は言った。


「獏ってのは悪夢を喰う存在の事だ」


にたりと笑った顔は、何の感情すら浮かんでいなくて。
ただ感じ取ったのは、一種の後悔と、深い海の底のような涼しい寒気。
それが何の寒気なのか、答えは明白だった。
亜月は一つ生唾を飲み込む。

出来る事なら夢も見ない歪なヒトデになって、その深海を悠然と見守っていたい衝動が、つまりは回答だ。




+++




「山本ォォ!! どーにかして!!」


いつにも増して重たい足が、よろけながらも前へ進もうとする。
しっかりと右手に握られた携帯電話は、汗ばんで握り心地が悪い。


『どーにかってどーすんだ。言っとくけど俺、ものの頼み方知らない奴は嫌いだから』

「ごめんなさいお願いします助けてください」


走り続けて息の荒い亜月に向けて、凌が「思いっきり棒読みじゃねぇか」と文句を垂らすが、キレイに受け流しておいた。
今はそんな事に構ってる余裕はない。
直ぐ後ろには父がいる。走っても走っても、緩やかに歩いて追ってくる父が。
しかも、その顔には優しげな笑みが浮かんでいる。
それだけならいい。それだけなら、まだいい。
だけど、違うんだ。
あの笑みは優しくなんかない。
そう、あれはまるで何かを射抜くような・・・鋭い殺気を帯びている。
そんな気がしてならない。

必死になっている亜月の心情がようやく伝わったのか、凌が一つ溜息を着いた音が聞き取れた。
電話の向こうの声は、落ち着き払ったまま「まぁ聞きなさい」とだるそうに言った。


『そいつはただの影だ』

「は?!」

『だーから、その男は本体じゃねぇっつってんだよ。なんなら自分の頬つねってみろ』

「んなッ?! そんなバカっぽい事でどーにかなるわけ?!」

『いーからやってみろって』


もうすぐそこまで父は来ていて、足もほつれているし、藁にも縋る気持ちで自分の頬をつねった。
つねった瞬間、痛みがなくて現実感のなさを実感する。
このまま痛みがなかったら・・・
そう思うとゾッとした。

夢に引き摺り込まれる・・・

底知れない恐怖心が襲ってきた。
頬をつねる手に力が入る。
ギリ・・・と爪が食い込んで、ようやく頬の感覚が戻ってきた。
その瞬間。
まるで波に攫われた砂の城のように、父はドサリと土となって夜風に流れていった。
唖然としてそれを見据え、力の抜けた腰がストンとコンクリートに落ちる。

父だったそれは、さらさらとコンクリートを撫ぜるように滑っていく。


「あーぁ、ボロボロですねお嬢さん」


放り出した携帯電話とすぐ後ろから聞こえるダブった声に振り返ると、子機を手にしたまま塀に寄りかかっている凌が見えた。
よく見れば、塀の表札には「山本」の文字がある。
無意識の内にここに向かって逃げていたみたいだ。
見下ろしてくる山本の紅色の瞳に、何故だか無償に縋り付きたくなった。

どうやら本当に、夢に取り憑かれたらしい。




+++




目の前で縮こまり、ホットココアを飲む亜月を横目で見てから、凌は腕時計を確認する。
今は丁度夜の10時。
もう少しで明日になる。

閉じられたままの右目を指でなぞり、ココアを飲み終えた亜月がコップをテーブルに置くのを待った。
コトン・・・と陶器のコップとガラス張りのテーブルのぶつかる音。
小さな沈黙を破って、亜月が震える声で問いかけてきた。


「あれ・・・あの、影って何」


静かに問い詰めるような目を見返すと、亜月は怯んで顔を背けた。


「夢が出来るまでの課程で生まれる出来損ないみてぇなもんだ」

「出来損ない?」


あからさまに顔をしかめる亜月を見て、言葉の選抜を誤ったかと直ぐに話題を変えた。


「本来、夢ってのにも種類がいくつかある」


背もたれに任せていた背中を丸めて前屈みになると、膝に肘を置いて人差し指を立てる。


「夢は呼吸だとか食事、睡眠・・・そーゆー日常に必要なものと同じ様なもんで、人間は現実と非現実を毎日行き来する事で頭に刺激を与える。それによって脳は退屈しないですむ。生き物にとっちゃ欠かせないもんの一種なんだ」

「え? だって夢なんて見ない日の方が多いよ」

「それはお前らが覚えてないだけの事だろ」


至極当たり前の事さえも疑問に思ってしまうんだから、人間ってのは面倒臭い。
気付かないうちに呆れた面持ちになっていたようで、亜月が眉間にしわを寄せた。


「夢は人間の生活に欠かせないもんだが、全部覚えてたら頭がパンクする。それに、非現実的な世界を鮮明に覚えてる方が重症だ。現実と非現実が混沌としていつかこんがらがっちまうからな。多少忘れた方が、脳みそには優しいってワケだ」

「ふーん・・・」

「それらの中には吉夢だとか悪夢だとか、色々ある。その中でも悪夢ってのは人間の負を喰って成長する奴らだから、大抵はこーゆーヤツらが正夢になる」

「・・・?」

「俺は人間の見る夢を餌にして生きていて、特に悪夢を専門に喰ってる。まぁ別に夢だったら何でもいいけどやっぱ悪夢が一番美味いっていうか―・・・」

「ちょ、ちょっと待って!!」


慌てた様子で凌を制止する。
見下ろせば、亜月が理解出来ないとばかりに顔をしかめていた。
凌もその表情の意図が掴めなくて怪訝そうな顔になってしまう。


「何を食べるって・・・?」

「だから、夢を喰うんだよ」

「誰が? アンタが?」

「あぁ。お前人の説明聞いてた?」

「聞いてたよッ」


癇癪を起こすので、凌は耳を手で覆った。
女の金切り声は何度聞いても好きになれない。
それに耐えられなくて、凌は亜月に「静かに聞いてろ」と黙らせた。
けど亜月はそんな事もお構いなしに、きーきーと喚き始める。


「意味分かんないよ!! 夢を喰うだの正夢がどーたらこーたら!! 人間があんなもの食べられるわけないじゃない!! それに、そんなのあたしに関係ないじゃん!! 何であたしがあんなのに追われないといけないわけ?!」

「・・・」

「ちょっと!! 聞いてんの山本?!」


テーブルに乗りだしている亜月を見下ろす目が、自然と細くなった。
胸の奥に甦るあの胸糞悪い気分と、脳裏を掠める記憶に目眩がする。


「・・・夢に襲われるのは何もお前だけじゃない。お前ら人間が生きているうちに悪夢を見ない日なんてないからな。大体、悪夢も相当な回数同じ夢を見ないと正夢にはならねぇ。生きてるうちにそう何回もあるわけじゃ―・・・」

「待って・・・何、その自分は人間じゃないみたいな言い様は・・・」


理解できずにパニックを起こす寸前にまできてる亜月を見下ろして、頭をガシガシかいた。
「だからさぁ・・・」と自然と苛立ちを含んだ声色になってしまって、慌てて眉間に寄ったしわを解いた。


「俺は、人間じゃねぇんだよ」


何か言いたげな亜月に、言葉を発する暇さえ与えないように凌は言葉を繋ぎ足した。


「俺は人間じゃねぇから夢を喰えるんだよ。理解した?」

「全然」

「オイ・・・」

「だって・・・人間じゃなかったら山本はなんなの?」


あぁ、そう言えばそれを言っていなかったっけか?
凌はあやふやな記憶の中で最重要ポイントを言い忘れていた事に気付いて、罰が悪くなった。


「俺ァ獏だよ」


「ばく・・・?」と、一週間前にも見たような光景がデジャヴのように甦る。
軽く頷いてやれば妙に納得したように亜月も頷いた。


「俺みたいな獏は夢を喰う。今回はたまたまアンタの夢が、俺の喰い物になるだけの話だ」


「それだけだ」と付け足すと、アパートまで送るぞと腰を浮かせた。
詳しい話は、もっと後にすればいい。
話に強引ともいえる終止符を打って、凌は玄関へ向かった。

ホットココアに使った薬缶の口から、ただ静かに湯気が登る。