「好き」と言う言葉に、俺は何と応えればいいんだろう。




14 : モテる事とモテない事




+溜息の日+


「凌ー、ゴミ捨て行こうぜ」


掃除の時間もそろそろ終わりを告げる頃、ゴミ袋を手に優生が凌を呼んだ。


「えぇ・・・面倒くさい・・・」

「手が空いてんの俺らだけだししょうがねーだろ」


優生がさっさとゴミを持って歩き出すのを見て、凌は小さく溜息をついて後をついていった。
思ったよりもゴミの量が多く、二人で運んで丁度良いぐらいで、がさがさと両手にゴミ袋を持って二人はゴミ捨て場へと歩いていく。
すると、一、二歩先を歩いていた優生が、小さく「げっ」と呟いた。


「ゴミ捨て場の入り口に上級生がたむろってるよ・・・邪魔くせぇけどなぁ・・・」


柄の悪そうな上級生が数人、ゴミ捨て場の入り口付近でなにやら話をしているらしい。
その中心部はよく見えないが、ちらっと女子の制服が見えて、優生は小さく溜息をついた。


「どうするよ、アレ相手すんの色々マズイし・・・ってオイ!! 凌?!」


優生が足を止めて振り向くと、既にそこに凌の姿はなかった。
慌てて前を見ると、凌はさっさとゴミ袋を持って入り口へと向かっていた。
止めようと凌の名前を呼ぼうとするが、優生の言葉は口から出ることはなかった。


「あのー、邪魔なんすけど」

「あぁ?」


凌は上級生に、何時もと変わらない様子でさらっと声を掛けてしまっていた。
優生が顔を引きつらせつつも、急いで凌の後に続いて上級生に苦笑を向ける。


「あー、あの、ゴミ捨てたら直ぐ出てくんで、ははは・・・」

「ちょっと待てよ」


優生には目もくれず、上級生はさっさとゴミを捨てる凌をにらみつけた。
当の凌はそ知らぬ顔で、無視しててきぱきとゴミを捨て終え、ゴミ捨て場から出て行こうとしている。
その態度に優生がいやな予感をよぎらせるが、その予感は的中してしまった。


「何だよお前、その頭」

「真緑色とか・・・ナメてんじゃねぇぞ」

「しかもカラコンまで入れてやがんのか? 赤い目なんて不気味じゃねぇか」


ケラケラと馬鹿にして笑う上級生に、優生は頭に血を上らせる。
かろうじて理性が保っている間にさっさと出て行こうと、優生もゴミを捨て終えたときだった。


「別にナメてないっすよ。ただ緑と一体化したかっただけっす」

「は?」

「この目も自前なんで。ちょっと昨日夜更かししすぎたんすよね」


凌がさらっと、何時ものように抑揚の無い声で呟いた。
しかも無表情で呟くその言葉に、優生が思わず噴出してしまう。
慌てて口を押さえるが、ソレは既に遅かった。


「・・・ナメてんじゃねぇか・・・あぁ?」

「これはお仕置きが必要かもなぁ?」


間接をぱきぱきと鳴らしながら、5人程の上級生が入り口を塞いでしまった。
絡まれていたらしい女生徒はびくびくと怯えながら、凌と優生を心配そうに見ている。


「お、オイ凌・・・? お前のせいだぞ? なんとかしろよ」

「は? なんで俺のせいなんだよ」

「は?! だ、だってお前が挑発したから・・・」

「挑発なんかしてねーよ。本当の事しか言ってねーし」

「嘘付け!! 本気で緑と一体化したいなんて考えるか!!」

「あー、どーでもいいけど殴りに来てますよ?」

「はぁあああ?!」


凌がポケットに左手を突っ込んで、だるそうにしたまま右手で上級生を指差した。
一気に襲い掛かってきた上級生のうち一人が大きく振りかぶり、優生を殴ろうと一気に振り下ろした。


「う、わっ?! わ、わわっ!!」


慌ててしゃがんで避けたところに、別の上級生の蹴りが襲ってくる。
ソレを飛びのいてかわすと、上級生がチッと舌打ちをした。


:「・・・っんだコイツ!! ちょこまかと・・・!!」

「チビのクセにうざってぇ!!」


凌がひょいっと軽々と上級生の攻撃をかわしながら、あーあ、と小さく呟いた。


「・・・誰がチビだこの野郎!!!」

「ガフッ?!」


優生がぐっと右拳を握りこみ、一気に下から突き上げる。
それはモロに上級生の顎に当たり、一人地面にひれ伏した。


「俺は成長期が遅いだけだっつーの!! このバーカ!!」

「何だと・・・?! このガキ!!」

「一個っきゃ年変わんねぇだろ!! 馬鹿!!」


ブチッと完全にキレてしまった優生が真っ正面から喧嘩を受けて立ってしまった。
それを見て、凌は小さく溜息を付き、「しょうがねぇな」と小声で呟いた。


「何がしょうがねぇんだ? やられてくれるってのか?!」

「いや、逆」


ポケットに手を突っ込んだまま、凌は上級生が殴りかかってきたのを余裕でかわし、代わりに蹴りを叩き込んだ。
見事にみぞおちにはいった蹴りに、上級生が一人倒れこむ。


「なんだよ凌、喧嘩強いんじゃん!!」

「あー・・・・・・お前ほどじゃないけどね」


優生は三人の上級生を相手にしながらも、そのうちの二人を既に倒してしまっていた。
凌の方に向かってきた二人の上級生のうち一人が倒れているので、残りは二人だけ。
凌は自分の背後に立っていた上級生に蹴りを叩き込んで倒すと、優生の方に向き直った。


「この、野郎、でかいだけのクセにっ!!」

「うぐっ?!」


丁度優生が上級生の攻撃をかわし、カウンターで拳を腹に叩き込んだときだった。
その時、足元に倒れていた上級生に躓いて、優生がバランスを崩してしまう。


「もらった!!」

「げっ・・・!!」


優生が一撃を覚悟して身を固めたが、痛みを感じることは無かった。
バキッという音と共に、上級生が倒れこむ。
その後ろに立っていたのは、蹴りを叩き込んだ凌だった。


「・・・お前なぁ、美味しいトコ取りすんなよ」

「何が。つかどうでもいいからさっさと戻るぜ」


疲れた、と呟きながら凌が踵を返してさっさとゴミ捨て場から出ようとする。
優生も後に続くが、その時さっきの上級生に絡まれていた女生徒が凌の前に躍り出た。


「あ、あの、助けてくださってありがとうございますっ」

「ん・・・? アンタまだいたの」

「オイ凌・・・その言い方はないんじゃ・・・」


優生が苦笑して呟くのも構わずに、女の子はペコリと頭を下げた。
凌はぽりぽりと頬を指でかくと、一瞥してその横を通り過ぎていく。
優生が慌てて後を追うと、後ろから女の子の声が聞こえた。


「あのっ、後でお礼をしに行きますから・・・!」

「・・・だってよ、凌」

「・・・・・・なんだよ」


ジトーっとした目で見られていることに気付いた凌がちらっと優生を見ると、優生は面白くなさそうに溜息を付いた。
少しムッとして眉を寄せる凌を見ながら、優生は小さく呟く。


「オマエさぁ・・・ほんっと鈍いっつーか、無頓着っつーか・・・」

「は?」

「・・・やっぱなんでもねーや」


優生は小さく溜息を付いた後、「やっぱりモテるヤツは・・・」とぶつぶつ言いながら、早足で教室へと向かう。
少し取り残される形になった凌は優生の背中を見ながら、面倒くさそうに溜息を付いた。




+++




「はー、掃除も終ったし帰ろうぜっ。んで、帰りにファミレス寄って行こう!!」

「ファミレス・・・!! 俺も行く!! ハンバーグ・・・!!」


優生が意気揚々と凌の腕を掴んで鞄を背負い、教室を出る。
優生の言葉に反応した巫人も目を輝かせて後に続き、亜月は少し迷った後、三人の後に続いた。


「あのさぁ、なんで俺まで行かなきゃなんねーわけ?」

「何言ってんだよ、今日のあの子について凌に印象を聞くためじゃん?」

「あー・・・何の話だっけ、それ」

「は?! 人の事喧嘩に巻き込んどいて忘れんなよ!! ゴミ捨て場の前で絡まれてた女の子助けただろ!!」


優生が食って掛かると、凌は少しの間のあと首をかしげた。


「喧嘩って・・・いつ?!」

「今日の掃除の時間だよ。ゴミ捨てに行ったトコに上級生がたむろっててさぁ・・・」


亜月が驚いて訪ねると、優生が丁寧に一から説明してくれた。
一部始終を聞いた後、亜月は凌をジトーっとにらみつけた。


「・・・なんだよ」

「何って・・・相手、大丈夫なんだよね」

「ちゃんと手加減したっつーの」


ぼそぼそと小声で会話を交わす凌と亜月を見て、優生と巫人は顔を見合わせた。
それに気付き、亜月と凌が不審なものを見る目で優生と巫人を見る。


「・・・何か言いたいことあんならさっさと言えよ」

「えー? 別に・・・和親サンと山本、仲良いなーって思って・・・ね?」

「そうそう。それだけだし・・・なぁ?」


ニヤニヤと笑う優生と、いつもどおりの笑顔を浮かべる巫人を見て、凌がイラッと頭に血を上らせる。
亜月がそれを察して先に凌に牽制した。


「山本、落ち着いて」

「・・・はいはい。わかってるって言ってんだろーが」


コイツら喰っていい?と聞こうとした凌だが、諦めてチッと舌をうつ。
それに気付いているのか居ないのか、前を歩く巫人と優生はぼそぼそと話をして、やがて優生が溜息をついた。


「凌ー・・・」

「・・・今度は何」

「・・・オマエの身長俺にちょっとくれよ。そうすれば俺だって・・・!!」

「いやだ。ふざけんな。死ね」

「ちょっ・・・死ねまで言わなくていいだろ!! 酷ぇ!」

「悪い。全てはノリと気分です」


まるでコントのようなやり取りを繰り広げていた時だった。
下駄箱に付き、靴を履き替えようと凌が下駄箱に手を伸ばす。
しかしその手を途中で止めて、下駄箱の中をじっと覗いた。


「・・・? どうしたの、山本」

「・・・何か手紙みたいなの入ってる」

「え?! 見せて見せて!!」


最初に気付いた巫人を押しのけて、優生が凌の下駄箱を覗こうとした。
しかし優生が手紙を確認する前に、凌がさっさと手紙と靴を取り出してしまう。
靴を履きながら、凌は手紙の差出人を確認しようとした。


「・・・1年2組の斉藤 葉波・・・?」

「へぇ、山本一年生に知り合いいたんだ」


巫人が意外そうに凌に言うと、凌は首を横に振った。


「いねーよ。知らねぇヤツ」

「今日の女の子じゃねーの?」

「俺クラスとか名前とか言った覚えねーんだけど、何で知ってんの、コイツ」

「あー、山本結構有名なんだよ。髪の色とか」


巫人がフォローを入れると、亜月は「やっぱり・・・」と小さく呟いた。
凌は納得がいったのか、ぺりぺりと封を剥して中から手紙を取り出した。
優生がうずうずと読みたそうな顔で凌を見るが、完全に無視して手紙を読み進める。
そして最期まできたところで、凌の眉が寄って眉間にしわができた。


「どーしたんだよ、凌」

「・・・・・・」


言いたくなさそうな表情のまま、凌が小さく溜息をついた。
その様子を見た巫人が、「ああ、」と呟いてぽんっと手を叩く。


「告られたんだ、山本」

「えぇえええええ?!」

「う、嘘・・・ホントに?!」


優生が大声を上げて、亜月が思わず凌に詰め寄る。
当の凌は煩そうに顔をしかめて優生を見ながら、「この言葉が告白だと言うのなら」と亜月の言葉を肯定した。

優生がショックを受けたような、納得をしたような複雑な表情で凌を見た。


「・・・やっぱそうだよなぁ・・・うぅ・・・」

「優生、元気だしなよ。優生もいつかは貰うよ、ラブレター」

「生まれてこの方貰ったことねーぞそんなもん!!」


ヒステリーを起こした優生を巫人が慰めているのを見て、凌は小さく溜息を付いた。
亜月が凌を上から下まで見て、ぽつりと呟いた。


「山本、顔はいいもんね。性格アレだけど」

「悪かったな」


なんだかんだ言いながらも、四人が校門に向けて歩き出した時だった。
一番最初に校門に目をやった凌が、ビタッと足を止める。


「? どーしたんだよ凌」

「ん・・・? なんか校門に、珍しい髪の子がいるんだけど・・・」


優生が凌に声を掛けるのとほぼ同時に、巫人が校門を指差した。
亜月が校門を見た瞬間、向日葵の黄色からオレンジへの見事なグラデーションの髪が目に入る。
どこかで見覚えがある、と記憶に過ぎったとき、一度聞いたことのある声が聞こえて来た。


「凌ちゃーん!!」


大きな声で手を振って笑顔を振りまく少女は、確実に凌の名前を呼んだ。
凌がそれに顔を引きつらせるのを見て、優生と巫人は凌と少女を交互に見る。


「・・・山本、知り合い?」

「や、知らない、知らないヤツ」


ぶんぶんと首を横に振って否定するが、その少女はパタパタと凌の方へと駆け寄って、ガシッと凌に抱きついた。


「やっと会えたー!! ずーっと待ってたんだからっ!!」

「引っ付くなって何回言ったら分かるんですかお前は・・・!! 離れろジェスカ!!」

「いやよ!長い間離れてたんだもん、充電しなくちゃ!」

「充電したいんならコンセントにでも繋がってろ!! 離せ・・・!!」


珍しく凌が声を荒げているのを見て、巫人と優生は知り合いだと完全に認識した。
亜月がどうしたものかとオロオロしていた時、校門にもう二つの人影があることに気付く。


「・・・なー凌、あの赤い髪のヤツってさー・・・」

「・・・どっかで見たことあるんだけど」


優生が校門を指差し、巫人が苦笑を漏らす。
凌がジェスカを引き剥がしながら顔を上げ、その赤い髪の人物とその隣でぐったりとしている少年を目に捉えた。


「しょ、翔くん・・・!! それに牟白さん?!」

「あれ、和親さんも知ってるの? あの二人」

「え?! えーと・・・山本の友達と、山本の親戚の子!!」

「え?! マジで?!」


巫人に聞かれて亜月が咄嗟に答えてしまった。
凌はギッと亜月を睨み、「余計なこと言うんじゃねー」と言わんばかりに背後から黒いオーラを出す。
亜月が顔を引きつらせ、とりあえず二人の話を聞こうと校門の方へ走っていく。


「二人とも、どうしたの・・・?!」

「あのガキが凌に会いたいっつーから連れて来たんだよ」


牟白は随分と苛立っているようで、舌打ち混じりに亜月に答える。
それに亜月は頬を引きつらせながら、元気の無い翔に視線を落とした。


「しょ・・・翔くん・・・?」

「・・・僕はね? ちゃんとねダメって言ったんだよ? 凌が怒るからって言ったんだよ? でもね、凌に会いたいってすっごく言うからね? 牟白さんがつれてきちゃったんだよ? 僕ね、ちゃんと反対したんだよ?」


ブツブツと俯いて小声で言い続ける翔を見て、亜月はとても翔がかわいそうに思えてきた。
ぽんぽんと翔の頭をなでながら、ちらっと凌の方を見る。
どうやらやっとジェスカは離してくれたらしいが、下校中の生徒の視線は完全に凌の方へと向いていた。


「つーか、何でココにお前が・・・」

「やだっ、凌ちゃんってば、お前だなんて他人行儀に呼ばないでよー。ちゃんと、ジェスカって名前で呼んで?」

「・・・・・・」


凌の表情がどんどん不機嫌になっているのを見て、優生と巫人はどうしたものかと顔を見合わせた。
その時、人垣を掻き分けて、一人の女の子が顔を出す。


「ちょ、ちょっと!! 山本先輩困ってるじゃない!! やめなさいよ!!」

「あ。あの子、凌が助けた子じゃん」

「え? ホント?」


恥ずかしさからか顔を真っ赤にしながらも、大声でジェスカを諌めた女の子を見て優生が呟く。
巫人が確認するように言って女の子を見て顔を引きつらせた。


「・・・コレってさ、修羅場ってヤツじゃねー? 巫人」

「うーん・・・そうとも言う、かもね」


明らかに凌に好意を寄せているオレンジ色の髪の少女と、凌にラブレターを渡した女生徒が対峙した。
凌は大きく溜息を付いて、うなだれている。
亜月はその様子を見て止めようとしたが、その前にバトルは始まってしまった。


「凌ちゃんはシャイなのよ。本気で嫌がってるんじゃないの、恥ずかしいだけなのよ」

「そんなわけないじゃない!! 好きな人が嫌がってるんだから、止めなさいよ!!」

「貴方に凌ちゃんの何がわかるのー? あたしなんか、凌ちゃんのコトはずーっと昔から知ってるのよ?」

「わ、私だって山本先輩のコトはたくさん知ってるんだから!!」

「じゃあ身長は? 体重は? 好きな色は? 凌ちゃんの髪の色の変化、一ヶ月前から順番に言ってみなさいよ!」

「そ・・・それは・・・」

「ホラみなさいよ、わからないんじゃない! そんな体たらくで、よく凌ちゃんの事を知ってるなんて言えたわね!」

「・・・・・・凌、そろそろ止めたほうがいいんじゃね?」


最早傍観者と化している凌に優生が近寄って話しかける。
凌は少しの間のあと、小さく溜息をついた。
巫人も傍に寄ってきて、こそこそと凌に話しかける。


「ギャラリーも増えてきたし、止めたほうがいいよ?」

「凌の名前思いっきりでてるしなー・・・。明日から凌の噂で持ちきりになるぜ? 年下趣味ー、とか、二股、とか」


優生の頭を一発殴ってから、凌は二人を止めるべく二人に近寄った。
優生が恨みがましく凌に視線を送る中、凌は頭をかきながら仲裁に入る。


「あー・・・お前ら、いい加減に止めろって」

「凌ちゃんは黙ってて!! 今この女に、身の程ってもんを思い知らせてあげるんだから!!」


クワッとジェスカが凌を噛み付かんばかりに睨みつけた。
そしてまたマシンガントークを始めたジェスカを見て、凌は大きく溜息を付く。
亜月が慌てて凌に近寄り、小声で話しかけた。


「ちょっと、止めなさいよ!」

「無理。今のコイツ止められんのは一人しかいねーよ」


凌がぼそぼそと小声で亜月に返した時、校門に人影が一つ増えた。
それは凌が思い描いていた、今の状況を抑えられる救世主で。


「ジェスカ・・・何をしてるんですか?」


低く、優しげな声色が響く。
その声にジェスカはピタリと動きを止め、校門の方へ向き直った。
そこにはいつものようににこやかな笑顔を浮かべた、闇サーカスの団長、オスカーが立っていた。


「騒ぎにならないようにと、念を押したはずなんですが・・・?」

「あっ・・・あの、えっと・・・」


たじたじになったジェスカを見て、巫人と優生が凌に疑問の目を投げつける。
溜息をまた一つついたあと、凌は小声で「ジェスカの兄貴だよ」と呟いた。


「だ、だってこの女が、凌ちゃんに言い寄って・・・」

「ジェスカ」


有無を言わさない迫力を込めて名前を呼ばれ、ジェスカは小さく肩を揺らした。
そしてばつの悪そうに目を伏せて、「ごめんなさい」と呟いて肩を落とした。


「すみません、凌。直ぐにつれて帰りますから」

「あー、そうしてくれると助かるわ」

「さ、行きますよ、ジェスカ」

「はぁーい・・・・・・凌ちゃん、またね・・・?」

「あーはいはい」


オスカーに連れられて、ジェスカは名残惜しそうにしながらも学校を後にした。
ようやく人がバラけ出して、亜月、優生、巫人はほっとしたように胸を撫で下ろす。
そしてそこに最期に残っていたラブレターの送り主は、思い切り肩を落とし、友人に慰められながら去っていった。


「・・・凌、俺、やっぱモテなくていいや」

「あ、そう」


優生が小さく呟いた一言に、凌も小さく呟いて返す。
凌の肩にぽん、と巫人が手を置いた。
牟白はいつの間にかいなくなっていて、亜月が翔くんを必死で慰める。
凌は校庭に立ち尽くしながら、大きく溜息を付いた。