お願い、誰か、俺を愛してよ




54 :信じてよ




+友達+


意味が分からない。
何で、泣いてるんだろう。

屋上の扉を出かかっていた凌が足を止め、優生と巫人を交互に見る。
優生はボロボロ涙を流していて、巫人は涙は出てはいないが、泣きそうな顔なっている。

意味、わかんねぇ。

困惑する凌に、優生がしゃくり上げながら話し始めた。


「そ、そんなの・・・なんで、黙ってたん、だよ」

「・・・」

「なん、でもっと早く、言ってくんな、かっ、たんだよ!!」


何でそんな事を言うのか分からない。
人間なんて、みんな俺の姿を嫌って陰口をたたいてただろ・・・?
この右目も、肌の色も、髪の毛も。
キモチワルイと言って近寄らなかったじゃないか。

俺に、どうしろってんだよ。

眉を顰める。
訳が分からない。
どうしたらいい?


「何でそんな大事な事をもっと早くに言ってくれなかったの?」

「・・・言って、信じたかよ」

「信じるよ!! 友達なんだから!!」

「凌は何でそうやって1人になろうとするんだよ!!」

「・・・」

「友達でいいじゃんか!! 人間と友達が嫌なんて言うなよ!!」

「そりゃ、ひどい人もいるけど・・・少なくとも俺たちは違うよ」


あぁ、目眩がする。


「凌が獏でも、いいから・・・人間じゃなくても、いいから・・・」

「友達じゃないなんて、言うなよ」


優生の震える声を聞いたのが、最後だった。

視界が暗転して


あぁ、またか。


と思ったんだ。




+++




「まったく、非常識な奴だな」


不機嫌な声でそう呟くポイズンに、牟白が苦笑を零す。
2人の視線の先には、疲夜によって布団の用意をされている凌を見据える、優生と巫人と亜月の姿。

流石に人間を2人も連れてポイズンの病院に凌を担ぎ込む事は出来なかったので、夢喰い屋に運んだはいいものの、結局は病院からポイズンを呼び出す填めになってしまったのだ。
冷たいオーラに包まれている彼の隣に立っている牟白は冷や汗が絶えない。

やっぱあの人間ども帰らせときゃ良かった・・・。

凌も凌だが、ポイズンの方が人間嫌い激しいんだった・・・と今更思い出したのだ。


「何故私がここまで呼び出されなければならないのかね」

「何故って・・・てめぇの病院に人間連れ込んだら・・・」

「殺す」

「・・・と思ってよ」


予想通りの回答に肝が冷える。
やっぱり自分の判断は間違っていなかった、とある意味ホッとした。
しかし医者でありながら凌の周りに人間がいる、と言って全て疲夜に任せている辺り、大丈夫なのかと心配も募る。

ほんと人間嫌い激しいな・・・。


「ところで、牟白」

「あ?」

「何故また倒れたのかね、彼は」

「知らねーよ、んな事。突然だ、突然」


ま、大方頭使いすぎたんだろーけど。

ショートしたんだろうな。
人間ってのが分かんなくて。

「手の掛かる奴だ」と呟くと、ポイズンがふん、と鼻を鳴らした。
ここまで引っ張り出された事をどうも根に持っているらしい。
空気が痛い。

疲夜によって敷かれた布団に寝かされた凌は一向に起きる気配がない。
暫くまた眠り続けるだろう事が分かる。
あーホントにめんどくせー
俺家出してきてんのに何で看病看病看病・・・看病ばっかじゃねーか。

牟白は大きく溜息をついて人の家にも構わずソファに深く座り込んだ。




+++




ハル・・・

ハル・・・


俺、分からなくなってきた。

人間が分からねぇよ。

なぁ、ハル。


俺、少しくらい



信じても、いいよな?




+++




起きたら、夢喰屋だった。

何日寝てたんだ・・・と窓の外に視線を向けようと寝返りをうつと。


「・・・何コイツら。何でここにいんの」


眉を顰めて見た先は、壁に寄りかかって眠る優生と巫人と亜月。
ゆっくり上半身を上げてそれを訝しげに見る。
コイツら、付いて来たのかよ。

あんだけ、色々言ったのに・・・?

沈黙を保ったまま、眠りこける3人を見る。
そう言えば皆そろって制服だ。
もしかして倒れてから1日も経ってねぇのか?と時計を見ると、「起きたか?」と寝起きの掠れた声。

声の主のいる方へ視線を向ければ、ソファに横になっていた牟白がひょっこり顔を上げた。
簪とゴーグルを取った彼が赤い髪を邪魔そうに掻き上げる。


「ソイツら、帰らねぇって言ってきかねぇんだよ」

「・・・」

「何でも言いたい事があるんだとよ」

「・・・あー、そう」


そんなの、聞きたくない。

再び布団を被って寝てしまおうと試みた。
変な期待をして、裏切られるのは沢山だ。

しかしその企みはもぞもぞと布団中へ入っていこうとする凌の腕を、誰かが掴んだ事によって阻まれた。

腕の伸びてきた方を振り返れば、心配そうな顔を向けてくる巫人の姿。
「あ、の、凌・・・」とつっかえつっかえで言葉を吐き出す彼を見る瞳が揺れる。


「俺、友達・・・止めないからね」

「・・・」

「しつこいって思っても、いいよ。でも、絶対止めないから」


何て、言えばいいだろう。
振り払えばいい、そう分かっているのに、振り払えない。
心のどこかで、期待している。
もしかしたら・・・なんて。


「俺だって、止めないぜ」


はっとして、優生を見る。
眠そうに目をこする彼の目は、泣いた後の特有の赤みを帯びていた。

何て言ったらいいか分からなくて、巫人の腕を振り払うと、布団を頭まで被った。


「ほんと・・・人間って馬鹿だな」


そんな人間が1人や2人、友人にいたっていいかななんて思う俺も、



充分、道化か。