まるでそれは作為だ。

止むことのない軋んだ音が、そう告げている。




69 :変人三昧




+10人10色+


「ぼ、僕のファミリーはwhitewmperorほど大きなものではありませんが・・・ぼ、僕をサポートしてくれるみんなはスゴイ腕を持ってますから・・・凌さんたち、と一緒にwhiteに乗り込みます」


「入っておいで」と扉に向かって言うグリプの声に続き、ゆっくりと開かれた そこから姿を現したのは、男1人と女3人。
部屋に窮屈そうに入ってきたそれらに並び、バンズとゾムリスも腰を上げた。


「しょ、紹介します。まず、さっきも言いましたけど・・・ゾムリス・ビクスと、バンズ・ヘルパーです・・・」


帽子を取って笑うバンズと、面倒くさそうに頭をかくゾムリスを手で指し示す。
そしてその隣の空色がかった金髪の男へ手の先を向けた。


「こ、こっちが、フラップ・ラスター」

「やぁ初めまして、綺麗な瞳の青年」

「で、こ、こっちが香王、ひなし、そしてメル・ナルバーシャ・サンナルです」


順にチャイナ服、猫目、水色の髪の女を指し示すグリプ。
それらは3人3様の反応をしめした。


「よろしく」

「よろしゅー!」

「よろしくお願いします・・・」

「し、凌さんと一緒に行ってもらうのは、ゾムリスとバンズ、ラスター、あと香王にしようかと・・・」


「どうですか?」と凌の顔色をうかがうグリプを押し退けて、ひなしと呼ばれた女が興味津々に凌と牟白の顔を覗き込んだ。
その上、小さく溜息をつく。


「やっぱあれやな。あんまし強そーに見えへんわ」

「あぁ?」

「やっぱり世界の頂点に立たれるお方はジャック様や!! あの方以上に強い方はそうそうおらへん!!」


「何あれ変人?」と眉を寄せてひなしを指さす凌に、グリプが苦笑を零した。
見れば、ひなしの“ジャック談”にいつのまにかラスターまで加わっている。


「確かにそれは同感だ! ジャックのあの銀糸の髪は世界中の誰よりも美しい!! あぁwhiteに乗り込んだあかつきには彼の流れるようなその御髪を私自ら手櫛でといてあげようじゃないか!!」

「何言うとんねんラスター!! ジャック様はうちの未来の旦那様や!! 大体何でうちはwhiteに行けへんのよ!!」

「待ちなよひなし。第一アイツは年下じゃない」

「歳なんて関係ない!! 愛さえあればえぇんや!!」

「だから、あの男がアンタを愛す事なんて100%有り得ないって・・・ウザがられてるでしょうに」

「何を言っているんだ!! ジャックのあの芸術的なほどの美しさは私のものだ!!」


わーわーと言い合う二人を呆れた目で見守る。
なんだかひどくへんてこなファミリーもあったものだ・・・
そう思い、凌と牟白は二人揃って大きな溜息を吐き出した。




+++




ボスのクリスを中心に、長いテーブルに座り込んでいるwhiteemperor幹部。
しかし、そこに用意された席のうち、1つが空いていた。

クリスの右隣。

第U席だ。


「あっれー、ジパちゃんどうしたのー?」

「寝てるんじゃねーのかァ? 今朝方フィラメンカを全部潰して帰ってきたばっかだからなァ キヒヒッ」

「ふ〜ん・・・つまーんないのー」

「寝かせておいてあげようよ、ね、ボス?」


赤毛の少年、総が顔色をうかがうようにクリスを見やると彼女は暫く沈黙を保ち、ようやく唇を開く。


「・・・サソリ、クモ、起こしてきなさい」

「で、でもボス! ジャックは疲れてて・・・ッ」

「・・・行きなさい」


シンとした空気にひんやりと響くクリスの声。
アントラはそれに小さく唸り声を上げ、浮かせそこねた腰を椅子へ戻した。
提案した総も、唇をとんがらせて椅子に寄りかかる。

サソリとクモと呼ばれた二人の男はゆっくりと立ち上がり部屋を出て行った。

そんな二人を見て、ティッセルが「あーぁ」と面白げな声を上げる。


「ボース、あんな事したらジパちゃん怒るよー? あの二人バラバラにされちゃうよー?」

「そうだよボス。ジャックさんは容赦ないからよっぽどの事がない限り99%の確率でバラされちゃうよ」

「別に良いんじゃねーかァ? クモとサソリは体のほとんどが機械仕掛けのマネキンみてーなもんだろーが」

「そ、そりゃぁ何回壊されても死ぬ事はないけど・・・直すウチの気持ちにもなってよ・・・」


深い溜息をつくアントラ。
それに「キヒヒッ」と笑う腐仁の隣で総がガシガシ頭をかいている。

ふとそんな空間に、大きな怒声が響き渡った。

紅茶を注ぎ直しているメイドがビクリと肩を揺らしてティーカップを取りこぼした。
ガシャンッと割れるカップと同時に、廊下の向こうから何か大きな破壊音。
それを聞いてティッセルが「あーぁ」と溜息をつく。


「ジパちゃんがサーちゃんとクーちゃんを壊しちゃった〜」

「そりゃそうだよ・・・」

「ジャックが寝てる部屋に入って生きて出て来れるのなんか、ガットくらいだもん・・・」


ドスドスドスと勢いのある足音が近付いてきて、純白の扉が吹っ飛んだ。
その後ろから現れた銀色は、手に持っていた何かを2つ、クリスに向かって投げつけた。
しかしそれが彼女に当たるより早く、腐仁がたたき落とした。

床に転がったそれは、サソリとクモの首だ。
すっぱりと切り取られた首の切断口からは幾つものコードが見えている。


「ファッキンざけんじゃねぇぞ!! あ゙ぁ?!」


寝癖の1つもついていない綺麗な銀髪を振り乱し、ジャックがテーブルを蹴り上げる。
壁に当たったそれは鈍い音を立てて倒れ落ちた。
クリスはそれに眉1つ動かさず、ジャックを見上げる。


「オイてめぇぶっ殺されてぇのか?!」

「・・・定例会議よ。出席していないから呼んだだけ」

「うるせぇ!! ついさっき寝たばっかなんだ!! 2時間前!! のんびり椅子に座ってるてめぇとちげぇんだよ!!」

「・・・貴方がガット・ビターの後始末をしたいと言ったのよ」


淡々とした声色に、ジャックが苛ついて傍の花瓶をたたき落とした。
慌ててアントラと総が止めるものの、豪腕の持ち主であるジャックに軽くあしらわれて吹っ飛ぶ。
それを面白そうに見やる腐仁と、ティッセル。

ジャックは大きく舌打ちすると、いつもよりもルーズな恰好のまま自分の椅子にどっかと腰を下ろした。


「・・・会議を始めるわ」




+++




凌は与えられた部屋のベッドに寝転がったまま、グリプの説明を思い出していた。
なんでも、ひなしを除いたほとんどの者はディーサイドの後にwhiteemperorの幹部から引き抜いて連れてきたらしい。
ひなしはblackkingdomに居た悪魔だとか・・・

しかもそれぞれの性格や趣味は全く違う方向を向いていて、ボスのグリプはいつも大変だとか。

ゾムリスは音楽が好きで、その中でもヴァイオリンを愛しているらしい。
だがその奏でる音は脅威だとかなんとか・・・
ヘタなんだろうな・・・とキィキィ悲鳴を上げるヴァイオリンの音を想像して顔をしかめた。

バンズは無類の女好き。
視界に入った女は全て口説かないと気が済まないと言うし。

ラスターは文字通りの変態だ。
彼が認識した”美しい”もの全てを我が手にするためには何でもするという・・・
地獄の底まで追っかけてくるとは、彼のためにあるのだと同ファミリーが口を揃えて言うのだ。

香王は戦闘大好きで、ひなしは強い男を愛して止まないらしい・・・今はジャックに狙いを定めているとか。
唯一まともと言えるのは、控え目で目立ちはしないメルだろう。
常識人と言ってしまえば、一番しっくりくる。


「・・・まぢ、俺なんでこんなとこいんだか・・・」


前髪をかき上げて天上を見上げる。
自然と右目も開いていたらしく、いつもより視界が広い。


「厄介なとこにきちまったよホント、ありえねぇ」


ガシガシと頭をかく。
随分と最近、自分の周りが騒がしい。
何でこう面倒事が多いんだか・・・
まるで意図的なものがあるのではないのだろうか、と不意に思ってしまうのだ。