例えばあの時お前を崇める言葉を一つも発していなかったら俺は迷わず後輩を撃ち殺していたはずだ




81.貴方を映さぬ目を潰せ




+気が付けば世界に色が戻ってた+

「ほ、本当にご迷惑をおかけしました」


そう言って何回も頭を下げるグリプ。
whiteemperorの一件は何とも歯切れの悪いものになった。
幸いbeensファミリーは全治3週間のゾムリスと2週間の香王、ラスターと・・・皆死には至らなかった。
ただバンズはまるで壊れたかのようにクリスの亡骸に涙を零し、今は抜け殻のようにソファに座り込んでいる。
それに凌が視線をやるとグリプが困ったように眉を下げた。


「バ、バンズの事ですか?」

「ん?・・・まぁ・・・」

「か、彼は昔ネーログェッラでアリアベールと言うフィアンセを亡くしたんです・・・それをずっと自分のせいだと思い詰めてて・・・」


労るように目を細めるその瞳は今にも泣き出しそうで。


「バンズは、すごくアリアベールを愛していたから・・・クリスはアリアベールの親友だったんです・・・だからバンズはお兄ちゃんの次のボスにクリスを・・・」


フィアンセとその友人を死なせてしまったと、悔いやまないのだと。
バンズを一瞬見やって俯くグリプの柔らかいオレンジ髪を撫でてやれば、少し驚いたように顔をあげた。
しかしすぐ嬉しそうに笑うその少年につられて凌も軽く笑む。

beensは深手を負ったといえ,死亡者が出ていない分まだマシだった。
ジャックとアントラを残して他の幹部が死亡したwhiteemperorでは新たに幹部の席を埋める必要がある。

ボスの座も言わずもがな。


「どうしようね、ジャック」


生き残った幹部の1人であるアントラが不機嫌なジャックに問いかけるが、彼は長い足を組んでソファにふんぞり返ったまま返事もしない。
おかしいな、絶対ボスの座は俺だろ!って言うと思ったのに・・・とアントラは眉をひそめた。
何も言わないジャックを少し心配の色を含んで見つめる。

やっぱりガットを半殺しにしたのまだ怒ってるのかな・・・でもさっき普通にポイズン博士にガットの治療頼んで・・・いや、命令してたし。

顎に手を当てて首を傾げるアントラをよそに、ジャックはむっす―とした表情で「くせぇ」と呟いた。


「え?」

「ファッキンくせぇ苛つく悪魔と死神の匂いだうぜぇぶっ殺す!!」


ジャックは突然大声を上げたかと思えば腰にぶら下がる鍵から一つすくい上げて、ジャックナイフに具現化したそれを入り口の扉に投げつけた。

しかし本来扉に突き刺さるはずのそれは、唐突に開いた扉の向こうのそれ目掛けて直線に飛んでいく。


「んん? 素敵な歓迎じゃないかぁ」


真っ白な扉を開き、ジャックの投げたナイフを素手で受け止めたそれは闇夜のような髪を靡かせて部屋に入ってきた。
その後ろに続く黒い集団。


「牢屋にぶち込まれたくなかったら全員鍵を足元に置いて手ぇ上げなぁ」


にやりとつり上がった唇。
腰まである長い黒髪。
特徴的な喋り方。

それは見間違える事もない、イガラ率いるblackkingdomだった。
ずらりと部屋をに入り取り囲むように立ち並ぶ黒にジャックの中でブツンと何かが切れた。
ギシリとソファを鳴らして立ち上がった彼は長い銀髪を払いのけてその手の内に洋剣を表す。


「ファッキン気にいらねぇな!! 誰の許可を得てwhiteにズカズカ入り込んでんだこのドブネズミどもが!!」

「おやぁ随分ご立腹だねぇジャック・J・ジッパー。それじゃいつか頭の血管が切れちまうよぉ?」

「うるせぇ黙れくそアマ!」


ブンッと洋剣で空を斬るジャックは苛立たしげにイガラを睨み付けた。
やれやれと肩をすくめるイガラは相変わらず口元に笑みを灯したままで、それが更にジャックの怒りを誘い出す。
彼女は女性特有の高いキーで笑うと「用事の1つに貴様は絡んでるんだぁ、喚くなよ」と言った。

「あ゙ぁ?」と不機嫌な声をジャックが漏らしたその時。
いいからさっさと出ていけと視線で語る彼の喉元に何かが音もなく添えられた。

視線だけでそれを見下ろすと漆黒の鎌が見えて視界の端にはそれを突き付けるソルヴァンの姿。


「・・・てめぇ誰の首に刃ぁ立ててんのか分かってんのか?」

「逮捕状を見ませんでしたか? 罪人に名前など必要ないでしょう」

「ファッキンいい度胸だ、俺に楯突いた事後悔しやがれ!!」


止めるアントラを無視して、ジャックは黒いその鎌を払いのけようと手を振り上げた。

しかしその動きは途中で不自然に止まる。

ギシギシと体の融通がきかないことに眉根を寄せると、イガラの後ろから落ち着き払った女の声。


「私のワイヤーに絡まれば容易に動けないわよ」


穏やかにそう言う女、リーテをギロリと睨んだジャックが「だから何だ」と叫ぶ。


「うぜぇムカつくたかだか糸が俺の自由奪ってんじゃねぇぞクソがあああ!!!!」


ギリギリと肌に食い込む操り糸を無視して腕を動かし、ジャックは強引に洋剣で鎌を突き付けるソルヴァンに斬りかかった。

その際にブチブチと操り糸が切れて強引に引っ張られたそれはその先を掴んでいたリーテの手を裂いた。


「まぁ・・・!」

「っ・・・リーテ、大丈夫か?」


倖矢がリーテの手に視線をやり、次にジャックを僅かに睨んだ。
しかしそんな事に気付かないジャックはソルヴァンに第二撃を与えようと再び剣を振り上げた。
1tとは思わせない程に軽々とツヴァイハンドを扱う彼の速さはソルヴァンの想像を越えていて目を見開く。

痺れるような激痛を味わう事を覚悟して鎌を構え直すと、不意に風音。

ヒュッと直線に飛んだそれはジャックの鼻先をかすめて壁に突き刺さり、彼の敵意に満ちたエメラルドがそれの飛んできた方向を向いた。
そこにはアーチェリーを構える倖矢の姿。


「てめぇ・・・あぁ、倖矢か」


かつて風濱に居た頃の後輩により一層眉間にしわを寄せる。
こいつは俺がどんな性格か理解していた筈だ。
そう思うと余計に怒りが沸騰してくる。
「何のつもりだ」と低く唸るように言葉を吐き捨てると、倖矢はあまり感情を表さない顔を些か歪めて今度はジャックの眉間を狙って弓を引く。


「俺は先輩を尊敬しています。貴方のように無差別に強い人は見たことがない」


淡々と物語る倖矢は目を細めてキリキリと矢を引き、洋剣を握るジャックの手に力が入る。


「それでも、リーテを傷付ける奴を俺は許さない」


あとは指の力を緩めるだけで真っ直ぐと矢はジャックの眉間を貫く。

そこから生まれた僅かな油断だった。

ガチャリとこめかみに冷たい鉄を感じたと思った瞬間。


「それなら俺はジャックに弓引くてめぇを許さねぇ」


パァァン!と快気な音がして脳髄を揺さぶる衝撃、硝煙、傾く体。
視界の端に見えた金髪を最後に、倖矢の意識は途切れた。
弾圧で横に揺らいだ倖矢の体を支える夜魅とリーテを一目して、ガットは静かにジャックの方へ足をのばした。

ポイズンに治療されたばかりの彼は額に包帯を巻き、左腕をつって更に分厚いブーツをはいた左足を引きずっている。
それに片眉を上げたジャックは剣をしまった。

ガットはジャックの数歩前で立ち止まるとくるりと体の向きを変えてイガラをそのコバルトブルーで睨み上げる。
彼の愛用マグナムの銃口が今度はイガラに向いた。


「どういうつもりだてめぇら」


静かに怒るガットの低すぎる声にめ怯まないイガラはクスクスと笑って言う。


「貴様が勝手にblackを抜け出したからわざわざに迎えに来てやったんだぁ」


彼女の抵抗するなと言う無言の威圧がガットを襲う。


「さぁ戻っといでぇ、貴様のために新しい独房を用意してやるからさぁ゙ッ」


イガラの流暢に放たれる言葉尻が空を裂く音と共に濁った。
見れば彼女の額にはざっくりとナイフが突き立てられていて、驚くスピードで彼女にそれを突き立てた本人は心底つまらなそうな声で言い放つ。


「ファッキンうぜぇな」


ガットが振り返れば再び足を組んでソファに体を任せるジャックがいて、指先でくるくるとナイフを回しながら天井を仰ぎ見ている。


「イライラする。あ゙ぁムカつくいいかよく聞けそこの死神。てめぇの意見なんざ聞いてねぇんだコイツは俺の意志でblackに返してやるって言ってんだぜ?」


ざっくりと刺さったナイフを額から引き抜くイガラの額に傷はなく、彼女ははじめて顔を歪めた。
そんな姿を見下すかのような冷たいエメラルドで見やるジャック。


「てめぇがムカつく今、コイツをblackにやる気がしなくなった。だから死ね。てめぇが死んで俺の令状とやらを破り捨てる。そしたらガットは晴れてwhiteに戻って来れるわけだ」


ジャラリと持ち上げた鍵の束。
ガットがそんな彼に声をかけるが、不機嫌なジャックはそれを右から左にスルーしてソファに座ったまま「ガット、殺れ」と顎で命令する。
ガットは小さくため息をつくと言葉と同時にジャックが投げて渡した鍵を受け取りそれをガトリングに具現化させた。


「・・・てわけだ。うちの王様に気に入られなかった事を呪うんだな」


ガチャンとセットしたガトリング砲の銃口をイガラだけでなくblackの幹部全員に向けるガットは、困ったように笑いながら引き金を引いた。

耳をつんざくような音が響き,硝煙がたなびいていく。
ジャックのヒャハハっと笑った声が聞き、外野で彼らのやり取りを見ていた凌たちが煙に咳き込んだ。
暫くガトリング砲の音が響いた後、漸くにして発砲を止めたガットが武器を鍵に戻してジャックに返す。
それを満足げに受け取ったジャックが何かを言おうと口を開いたが,出てきた声は不機嫌に歪んでいた。

「あ゙ぁ?」とジャックの発した濁った声に皆の視線がイガラたちの居た場所に向かう。
硝煙がはれたそこに見えたのは。


「やれやれ。あまり私の仕事を増やさないで頂きたいのだが」


ジャックに負けず劣らずの不機嫌声で現れたのは、灰色の髪を靡かせ入ってきたポイズンだった。
包帯を巻いていない彼の顔は面倒くさそうに歪んでいて、何よりも驚きだったのはガトリングから放たれたはずの弾丸がポイズンから一定の距離を置いた空間に悉く止まっていることで。
その光景に見覚えがあるガットは眉を潜める。


「唯でさえwhiteの部下たちの治療に手がかかっているんだ、これ以上怪我人を増やさないでくれたまえ」


コツコツと革靴を鳴らして部屋に入ったポイズン。
それに合わせて宙に停止していた銃弾がジャラジャラと落下していき、ふわりと揺れた前髪の下から見えた右目にガットは状況を理解した。


「・・・そうか、てめぇも貘だったもんな」


邪魔をしたポイズンをギロリと睨むガットに一目やり、外野にいる凌たちの方へ足を運んだ。
それを無視と捉えたジャックの片眉がつり上がる。


「くだらない争いに興味はない。ただ怪我人は増やしてくれるな、今は疲夜たちが使い物にならないのでね」

「そういや見つかったのアイツら」


ただ黙って事の成り行きを見守っていた凌がポイズンに問いかけると、彼は低い声で返事した。


「"中身"を全て出されていたがね。おかげでまた作り直しだ。まったく腐仁たちには苛立ちが絶えない」


腐仁の名前にジャックは腹の底から殺意が芽生えるのが分かった。
しかしそんな彼を知ってか知らずかポイズンは淡々と皮肉を吐いていく。


「だが今はそれよりも現状だ。私は1人の友と離れる事すら受け入れられずにただわめき散らす者とは違うのでね」

「あ゙ぁ?そりゃ俺の事か・・・!?」

「ほぉ、自覚はしていたのかね。それならば話は早い。早くその見苦しい我が儘を止めてくれたまえ見るに耐えない」

「てめぇ・・・!!」


ジャックが鍵に手をかけると、殺気が立ち込めるその2人の間に凌が割って入った。
眠たげな眼差しで面倒くさそうに首筋をかきながら、彼は空気に溶ける声で「は―いストップ―」と手を上げた。


「何でもいいけどいい加減ドンパチするの止めていただけます? 俺早く帰りたいんだけど」

「誰だてめぇ」

「誰って・・・アンタの部下? 友達? のガットに巻き込まれた被害者です」


気怠い雰囲気にジャックが眉をひそめて鍵から手を離す。
凌はちらりとそれを確認すると、また静かに言葉を紡いだ。


「離れたくないならwhiteとblackの確執なくせばいんじゃないの。どうせネーログェッラなんか昔の事だし、そうしたらガットがblackにいてもwhiteと行き来できるし」


「行き来するのは俺かよ」とツッこむガットを無視して凌が壁に寄りかかって話を聞いていたイガラに視線を送る。


「アンタもどうせそんな感じの理由で来たんじゃないの?」

「・・・」

「whiteのボスも代替わりしなきゃだし、ほら、解決じゃん。てことで俺は帰って寝る」


そう言って欠伸をする凌に牟白が苦笑を零してポイズンがため息をついた。
少しの間唖然としていたジャックは不意に喉を鳴らして笑い、次第に声高らかに笑い出した。


「ヒャハハ! 面白い事言いやがるじゃねぇかてめぇ!」


近くのガットの肩を掴んで体をくの字に曲げながら腹を抱えて笑う彼からはさっきまでの不機嫌な雰囲気はどこにもなくて「いいぜ!」と高らかに言い放った。


「悪魔は気にくわねぇがその話飲んでやる。それならすぐガットを呼び出せるしな」

「おい、パシリなら部下を使えよ」

「ファッキンうるせえ。それにボスの件だがな、俺はやらねぇぜ」


思わぬ発言にアントラとガットの「は?」という声がかぶった。
それにジャックが何だよと言わんばかりの表情を向けるものだからアントラとガットは2人で慌て始めた。


「ジャック熱でもあるの!?」

「あぁ? んなもんねぇよ」

「じゃぁ何でボス辞退すんだよ!」

「興味がねぇつまらねぇ戦えねぇ」


きっぱりと言い放ったジャックにガットは複雑そうな顔をして黙り込んだ。
しかしジャックはうっすらと笑ってそんな彼の背中を叩く。


「今更こんなちいせぇファミリーのボスの座に興味はねぇんだよ。てめぇがblackを出るまではここに居てやるが戻ってきたらこんなとこさっさと出て行く。だからボスなんざならなくたっていい」

「けど・・・あんなに他人の下につくのを嫌がってじゃねぇか」

「あぁ? 誰が下につくって言った。面倒なボスの座はやるって言ったんだ」


そう言って部屋の隅でびくびくしていたグリプを指差してにやりと笑う。


「内政的なもんはアイツにやらせる。幹部もbeensの奴らで埋めりゃいい」

「・・・じゃぁ・・・てめぇは何をするってんだ?」


意味が分からないと顔をしかめるガットにジャックは笑って答えた。


「言っただろ? 俺がここに居る理由はてめぇがblackから帰ってくるのを待ってるからだ。それ以外は何もするつもりはねぇ。適当に気に食わない奴ぶった斬って時間潰してる」

「・・・」

「今はこのままでいい。下手にボスなんざなったら身動きとれねぇしな」


満足げに笑うジャックはぼすん、とソファに座り込んだ。
それにため息をつくガットは諦めたように苦笑を零してその隣に座り込む。
その様子を見ていたイガラが漸く口を開いた。


「私もそれでいい。実のところwhiteとはもう少し前に不可侵条約改正の申し出をするつもりだった所だぁ」


「ただあのクリスとか言う女がいけ好かなくて話さなかったがなぁ」と顔をしかめる彼女はグリプに視線を向ける。


「しかしいいのかぁこんなガキに任せて」

「そ、そうですよ僕なんか・・・!」

「大丈夫だよ、whiteにbeensが吸収されて幹部に俺様たちが入れるなら俺様やゾムリスがボスの補佐を出来る」


泣きはらして若干掠れた声でそう言ったのは、今の今までグリプ同様部屋の隅に立っていたバンズで。
彼は漆黒の帽子を目深に被って優しく笑った。


「それにうちのボスは臆病だがいいボスだ。それは俺様たちbeensが保証する」


ふっと笑った彼にイガラは静かに瞼を閉じた。


+ + +

「迷惑かけたな」


不意に背後から聞こえた声に振り返ると、そこには苦笑を零すガットと面倒くさそうなジャックがいて。
凌は帰ろうとしていた足を止めた。

あの後whiteのボスはグリプが内政面、ジャックが戦闘面を受け持つという話で落ち着いた。
ジャックは面倒くさいと渋っていたがその方がお前らしいと言うガットの言葉に漸く首を縦に振った。
後はイガラとグリプの間で血印が押されて何百年と続いたblack、white間の不可侵条約はなくなった。
そして漸く帰りの鍵を渡されて、今まさにwhiteの屋敷を出ようとしていた所をガットに呼び止められたのだ。


「ホントですよね俺の睡眠時間妨害してくれちゃってまじ有り得ない」

「てめぇ寝ることしか頭ん中にねぇのか」

「ほっといてください。んじゃ、俺は帰る」


ひらひらと手を振る凌にふっと笑みを零すガットは「物好きな野郎だ」と零した。
それを聞き取った凌が「何が?」と再び足を止めた。


「厄介事に巻き込まれてよくそんな澄まし顔でいられるな」

「表情がないのは昔からなんで。俺からしたらアンタの驚異的な忠誠心のが信じらんないね」


体大丈夫なの、と視線でガットの吊られた腕を見やるとやっぱり彼からは苦笑だけが返ってきて。
こんなキャラだったかな、と思う。


「まぁ、良かったんじゃないの。居場所なくならなくて」

「ん? あぁ・・・そうだな」

「・・・・・・なんかアンタ丸くなった気がしてきた、うえぇ気持ち悪い。最初はギャーギャー喚きながら銃ぶっ放してたのに」


うっすらと笑ってそう言う凌に「うるせぇ」と笑い混じりに返すガット。
んじゃ、と今度こそwhiteの扉から出て行った凌や牟白たちをちらりと見やってガットが振り返ると、ジャックは訝しむように凌の背中を見ていて思わず笑みが浮かぶ。


「変な奴だったろ」

「あ?・・・あぁ、あの貘か」

「きっとてめぇが気に入ると思った」


ふぅん、と僅かに興味を示したそのエメラルドの瞳。
ガットは足を引きずりながら歩き出して凌たちと同じようにwhiteの扉を押し開く。

その時不意に思い出した事をジャックが口にした。


「そういや何で倖矢を殺さず時間止めるだけにしたんだ?」


ジャックの声色には怒りや苛立ちはなく、ガットは視線だけ振り返るとふっと笑ってまた歩き出す。


「倖矢はてめぇの強さを認めてたからな」


ちょっとした手加減だと喉を鳴らして笑う我が騎馬に半ば呆れる。

どうしようもなく盲目的な奴だ。

しかしそれも悪くないと思う自分はどうやらどこまでも傲慢で理不尽らしい。