とある街のはずれ。
そこは街灯もない静かな森の中。
溢れかえる様に、貴方を迎えるは、灯りのともったしがないランプ。

おいでなさい。
おいでなさい。

そこではサーカスをやっているよ。

声の掠れた歌姫、
悲鳴で人を殺す魔物、
足の切れた空中ブランコ乗り、
獣に乗って現れる少女に、
ナイフを投げる少年。

それと、血塗れピエロは私のこと。

よっといで。
見ていくといい。

魂の美味い人ほど、歓迎しましょう…?




Obscurite Cirque

【闇サーカス】




深く、霧の濃い森の奧は、ひどく視界が悪い。
静寂に包まれたそこでは、真夜中、月も昇らない暗闇に潜むようにサーカスが開かれる。
それは人ではない、異形の者のサーカス。
血を滴らせ、道を外れた4人兄妹の夢魔が営むサーカス。

ほら、ごらん。

今夜は曇り。
分厚い雲が空を覆い、月明かりは皆無。

サーカスが、始まるよ。

あぁ、その前にキャストを紹介しようか?
きっと、君も彼らを気に入ってくれる筈だ。

長男は団長。長身の、白髪を靡かせる男。
柔らかい笑みをその顔に貼り付けて、闇と一体化した眼で3人の弟妹たちを慈しむ。

まるで親代わりの彼は、ひどく脆い過去を持っていまして。
実の両親に恐れられ、アジアの隅に売り飛ばされた哀れな子。
潰れた目は何でも買い取った男にやられたのだと。
主人にはその透き通るエメラルドの瞳が、やけにお気に召さなかったようだ。

悲惨な人生だね?

あぁ、だがこの後に彼は主人を殺して逃亡したのだと。
良かったかい?
一応これも、立派なハッピーエンドだ。

おや、ごらん。

夜道を辿ってきたけれど、そろそろ街灯の数も減ってきた。
足下に気をつけて。
そろそろ森の中に入るから。

さて、次男は黒光りする髪を持つピエロ。
一房だけ浅葱色をした前髪は生まれついてのもの。
やけに愛に乏しい発言をするのは否めない。
なぜなら彼は生まれたその時からの犯罪者。

父母の罪をかぶって牢獄に育ったのだから。

太陽の光も、月の明かりも届かない暗闇の牢獄で、彼が最初に目にした色は綺麗な赤。
何?君も赤が好きなのかい?
それは良かった、けれど君と彼はちょっと違うな。
彼の好む赤は時間が経つと黒ずんでいく、血の赤なのだよ。

彼に取ってはこの世で一番綺麗な色に見えたに違いない。
おかげで彼のピエロ服は見事な赤づくし。

おお、危ない。

足下に気をつけてと言ったでしょう?
危なく転ぶところだった。
でもほら、目を懲らしてごらん。
サーカスのテントはすぐそこだ。

どこまで言ったかな?
あぁ、そうだ。残りの二人は双子の子。

姉も弟も髪は向日葵の黄色から橙への綺麗なグラデーション。
よく喋る姉は気が強く、今は猛獣使い。
無口な弟は賢い頭を持ち、身軽なナイフ使い。
二人のコンビネーションは完璧。
双子なだけに、意気投合なんだろう。

彼らの過去?
あぁ、聞きたいのかい?

彼らの過去は至って簡単さ。二人の兄ほど辛くはない。
ただ、気のふれた両親を他界させてやっただけの事。
何?充分辛いじゃないかって?
おやおや、だったら目を潰された長男と、底冷えする牢獄で育った次男。

比べてどちらが辛いと思う?

まぁ私に言わせれば、どれもかれもおぞましいものだがね。

さて、これでサーカスを営む4人兄妹のお話は終わりだ。
どうだい?
見に行きたくなったかね?

血にまみれた鈍色のサーカス。
狂気と恐怖と快楽に満ちたサーカス。

もう引き返せないよ。
ここまで来てしまったのだから。

あぁ、一つ言い忘れていた。
サーカスに見るにあたって重要な注意事項だ、聞き逃さないでくれ。


Vous ne devez pas prendre le capuchon par tous moyens
【決してそのフードを取ってはいけないよ】


何故?何故かって?

そんな事、当たり前じゃないか。
人間だとばれたら、喰われてしまうからだよレディ。

充分に気を引き締めてお行きなさい。

一歩間違えればその命、亡きモノとなるだろう。




さぁ、楽しんでおいで。




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【ようこそ、首を亡くしたレディ…?】