: 優しさは砂糖味 :




      

気が付くと、目が凌を追っていた。
っていうか、なんていうか、毎日変わる凌の髪の色が気になって仕方ない。
というわけで、俺は今日も教科書を見るフリをして凌をチラチラ盗み見た。
つもりだった。


「オイ。なんだよさっきからじろじろ見やがって」

「じっ、じろじろなんか見てねぇ!! チラッと見ただけだろ!」

「なんで」

「なんでって・・・」


凌の批難するような目に一瞬口ごもった。
でも考えてみれば、ただ見ていただけで怒られることも、こっちが後ろめたくなることだってないはずだ。
そう思いなおして机に突っ伏した状態で顔だけ上げてる凌を見る。


「今日の髪の色、ハデだと思ってさ」

「あー・・・そう?」

「すげーハデ。窓から光当たってキラキラ光ってんじゃん」


凌の今日の髪は完全な金髪だった。
目は赤いし、まるでどっかの国の王子様みたいな外見になっていて、そのせいでクラスの女子の視線もほぼ凌が独り占めだった。
ここも許せないところだけど、まぁ、なに?マジで王子様みたいになってるししょうがない、かも。
とはいえこんなぐうたらした王子様がいるわけもないけど。
とか考えてるうちに、凌は顔を横にしてまた寝始めた。
どんぐらい寝たら気が済むんだコイツ、と思いながらその寝顔を観察してみる。

・・・なんかまつ毛すげー長くねーか、コイツ。
全体的に色素が薄い凌は肌も白い。っていうか青白い。
きらきら、髪が光っている。
蜂蜜みたいな色の髪。


「・・・・・・」


なんとなく凌の頬をつついてみた。
顔がしかめられて、ぺしんと手をはたかれた。
それでも起きようとしないから、今度は鼻を摘んでみた。
すると鼻に触れた指に力を込めるか込めないかの短い間に凌の目がパチッと開いて、思わずびくっと身体を揺らす。
次の瞬間頭に衝撃と痛みが走って息を呑んだ。


「ッ・・・ってぇえええええ!!」

「うるせぇ。黙れ」

「黙れじゃねぇっつーの! なんでいきなり頭殴るんだよ!! しかもグーで!!」

「俺の睡眠の邪魔をするやつは何人たりとも許さねぇ」

「・・・・・・何、ココ笑うとこ?」


ゴッ、という音と共にまた頭を殴られた。
いや、だって、真顔で言うからわからないっての。
棒読みでも真顔だと一瞬分からなくなるだろうがッ!


「お前にもやってやろうか」

「何をだよ! もう殴っただろ!」

「それじゃなくて、鼻と口つまんでやろうかっつってんだよ」

「口は摘んでないだろ!! って、ちょ、待っ・・・」


凌の右手がゆっくりと最短距離を移動して、俺の鼻に触れた。
びくっと身体を揺らして目をぎゅっと閉じる。
それと同時に鼻もぎゅっと摘まれて、思わず小さく叫んだ。


「ばーか、ビビッてんじゃねーよ」


ぺちん、と額を叩かれて目を開けると、凌がふっと笑っていた。
凌が笑ったとこなんか初めてみた俺は思わずぽかんとして凌を見た。
すると直ぐに何時もの無表情に戻った凌の顔に、今度は眉間にしわが寄った。


「何馬鹿面してんだよ」

「馬鹿面で悪かったなッ!!」


今笑ってたはずなのに、気のせいだったのかと思ってしまう。
もっと言い返そうと口を開いた瞬間、休み時間終了の鐘が鳴った。


「ホラ、センセイきちゃいますよー。ちゃんと座りなさい優生くん」

「テメェ・・・その、真顔で言うの、やめろっての。棒読みでも腹立つぞ・・・!」

「あ、ほら、センセイ来たし」

「んなこと言って話逸らそうとしても無駄・・・・・・」

「榊原ァッ!!」


次の瞬間、スパァンといい音がして俺の頭に三度目の衝撃が走った。
頭を抑えて振り返ると、なんと先生が怒り顔で立って、手には名簿を持っていた。
多分、それで俺の頭をはたいたな。
そして先生に数分のお説教を受けてから、俺は着席を許された。
恨みがましい視線を凌に送ると、凌はもう机に突っ伏して眠っていた。
きらきら光る凌の髪が風に吹かれてさらさら揺れている。
さっき、一瞬だけ笑った凌の顔を思い出して、何となく気分が向上した。

 

だって、絶対、アイツのあの表情を知ってるのは、このクラスでは俺だけだろ?
(でもなんでこれで気分が良くなってんだ?俺)

 

友達のいいところを知ってるからなんだろうなぁ。
なんて思いながら、暖かい陽気に俺も眠ってしまいたくなった。
心の奥に気付かないまま、俺は夢の中へと旅立った。







by:ツバメ;

→ツバメ短編ありがとーw
 よりによっての凌さんと優生くんだけど、背に腹は代えられん・・・。
 にしても君が書くと何故か凌さんが優しげに見える・・・(アレ? おかしいなぁ
 あたしが書いてもまったく優しそうに見えないのにね、何でかな 涙
 とにかくありがとーぅww