「ソルヴァン、コーヒーが飲みたい」
「かしこまりました」
我が主君
blackの中で最も地位の高い裁判官、ダンプ・ダック・ダーツはため息交じりに呟いた。
気だるそうな様子の自分の主に頭を下げ、ソルヴァンは部屋を出る。
「・・・」
あの人が素直にコーヒーを飲むとは思えない。
万が一の事を考えて、紅茶のポットも一緒に持っていくことにした。
何しろあのダーツは人を困らせて楽しむという性質の悪い性格をしている。
ソルヴァンは紅茶のポットとコーヒーのポットを持ってダーツの部屋の扉を開いた。
「あぁ、ソルヴァン。やっぱり紅茶に・・・」
「持ってきてあります」
「・・・」
ダーツの眉間にしわが寄った。
自分の思ったような展開にならなかったのでつまらないのだろう。
ソルヴァンはいつものようにカップに紅茶を注ぎ、砂糖の入った小瓶を隣に置いた。
「まったく・・・つまらない奴になってしまったな、ソルヴァン」
「おかげさまで」
砂糖をスプーンに山盛りにして、サバサバとカップに入れるダーツを見て、胸焼けがしてきた。
明らかに甘ったるくなっているであろう紅茶を平然と飲むダーツ。
「・・・陛下、じゃりじゃりと音がするのですが」
「砂糖だ。気にするな」
スプーンでかき混ぜるたび、何かがけずれるような音が聞こえる。
何から何まで以上なこの男が、こうしてblackの頂点に立てているのは何故なのか。
きっと人柄などではないのだろう、とソルヴァンはまた溜息をつく。
「ところでソルヴァン」
「何ですか」
「次の罪人だが、絞殺にしようと思うんだが・・・どうだ?」
「あまり派手な殺し方でなければ、陛下のお好きに」
+++
「陛下」
ソルヴァンが1日でまとめた書類の束を、ダーツの部屋で持ってきた時だった。
部屋のドアをノックしても、返事がないことに疑問を抱きながら、ゆっくりとドアを開ける。
「・・・陛下」
椅子に座ったまま、ふんぞり返るようにして眠っているダーツ。
机に書類を置いても、目覚める様子はない。
まったく・・・どうしようもない人だ。
ソルヴァンはダーツの部屋の奧から毛布を取り出した。
寝冷えしないように、その毛布をダーツの上にふわりとかける。
まるぜ自分がダーツの保護者に思えて、少し気分が悪くなるのを感じた。
何百、何千もの罪人を裁くblackkingdomのトップ。
彼の背には今まで殺してきた罪人の恨みが乗っている。
決して倒れてはならない王は、一体どこへその苦しみを逃がせばいいのか。
せめて自分だけでも傍にいて、この人の苦しみを受け負う事ができたなら。
結局はなんだかんだ言って自分はこの人を尊敬しているのだろう。
ソルヴァンは溜息をついてその部屋を後にする。
ダーツの部屋の外で、1人の部下が待っていた。
「何の用ですか?」
「あ、あの・・・次の罪人の裁き方を・・・」
「死刑です。首をはねてください」
部下を下がらせると、ソルヴァンは口元に笑みを浮かべた。
血に濡れた足を止めない彼に、自分はいつ追い付けるだろうか。
その日を思って、ソルヴァンは今日という日を記憶に刻む。
そうして今日も、1日は過ぎていくのだ。
:by ツバメ;